肝臓がんや放射線治療について、患者様からよくいただくご質問と回答をご紹介します。
Q.1 肝臓がんとはどんな病気ですか?
Q.2 どんな症状が出ますか?
Q.3 肝臓がんが疑われた場合、どのような検査を行いますか?
Q.4 肝臓がんの種類にはどのようなものがありますか?
Q.5 肝臓がんの「病期(ステージ)」とはどういう意味ですか?
Q.6 リンパ節転移、遠隔転移とはどのような状況ですか?
Q.7 診療ガイドライン、標準治療を教えて下さい。
Q.8 最先端治療と標準治療ではどちらがよいのですか?
Q.9 再発について教えて下さい。
Q.10 オリゴメタスタシスについて教えて下さい。
Q.1 放射線治療中に痛みなどの苦痛や副作用はありますか?
Q.2 放射線後の副作用はありますか?
Q.3 仕事をしながら、放射線治療を受けられますか?
Q.4 治療期間中の日常生活で注意することはありますか?
Q.5 治療は途中で休んだら効果がなくなりますか?
Q.6 治療効果はいつごろから出てきますか?
Q.1 SBRTとはどのような治療法ですか?
Q.2 どのような肝臓がん患者がSBRTの対象になりますか
Q.3 SBRTは手術と比較して治療成績は劣りますか?
Q.4 SBRTの実際の手順について教えて下さい
Q.5 体幹部定位放射線治療の線量のさじ加減について教えて下さい。
Q.6 体幹部定位放射線治療の効果と副作用について教えて下さい。
肝臓がんは日本において年間約3.8万人がかかり、2.5万人が死亡する、がんの中で5番目に死亡数が多い病気です。肝臓がんのほとんどは、肝炎ウイルスなどで慢性肝炎、肝硬変となった患者さんに生じます。近年肝臓がんの高リスク患者に対する検診が普及したこと、C型肝炎ウイルスに対する特効薬ができたことにより、全体的な死亡数は減少傾向にあります。一方で、飽食による脂肪肝が原因となる肝臓がんは増加傾向です。 肝臓がんが疑われた場合、全身状態と肝臓の機能、腫瘍の数や広がりなどを確認します。その状態に合わせて適切な治療法が提案されます。日本では、早期であれば手術とRFA(ラジオ波穿刺治療)が標準治療となっています。しかし、肝臓がんの位置が血管や胆管に近接していればRFAを行いづらいです。また、肝臓の深い場所に位置すれば広い範囲の切除が必要になり、元から肝臓の機能が低下している患者さんでは切除に耐えられません。これらの理由で、いずれの標準治療も行えない場合がしばしばあります。SBRT(体幹部定位放射線治療)は、体を通過する放射線を多方向から集中してがんに照射できます。そのため血管や胆管が近くても、肝臓の深い場所にあっても安全にしかも十分強い放射線治療を当てられる特徴を持っています。進行している場合、TACE(肝動脈化学塞栓術)、全身化学療法が選択されます。この場合でも放射線治療が奏功する場合があります。
早期肺がんの場合、ほとんど症状は出現しません。そのため健康診断や偶然撮影したレントゲン写真またはCTにて発見されます。 早期肝臓がんの場合、ほとんど症状は出現しません。しかし、肝臓がんの背景に存在する慢性肝炎、肝硬変により肝機能が低下していると、疲労感や食欲不振、腹水やむくみなどの症状が現れます。肝臓がんが進行すれば慢性肝炎、肝硬変とダブルパンチで肝機能が低下して、上記のような症状がさらに悪化します。そのため症状が長引くなど気になることがある場合は、医療機関を早めに受診して確認ください。
肝臓がんが疑われた場合、まず採血、超音波検査が行われます。それらの検査を行ってさらに肝臓がんが疑われた場合には、造影CTもしくは造影MRIが行われます。これらの検査で本当に肝臓がんか?肝臓がんならどのような種類であるか、どの範囲に広がっているかを調べます。多くの場合、直接針を刺して腫瘍の一部を採取してくる生検は省略されます。手術を検討する場合には、ICGテスト(インドシアニングリーン試験)、呼吸機能検査、心電図などが行われ、ほかの病気があればさらに検査が追加されます。そうして肝臓がんの状態、肝機能や患者の全身状態が確認され、最適な治療法を提案されます。
肝臓がんの9割は肝細胞がんと言われるがんです。ほかには胆管細胞癌があります。またがんの大元(原発巣)が別の臓器に存在し、そこから肝臓に転移した転移性肝腫瘍のこともあります。肝細胞がんは造影CTやMRIにて特徴的な染まり方をしますので、通常、生検を行わず画像所見で診断します。
がんでは、最適な治療法や予後を示すために進行度分類(ステージング)が行われます。通常のがんでは癌の大きさと広がり(TNM分類)で進行度が分類されますが、肝臓がんでは癌の大きさと広がりに加えて、肝機能と全身状態の情報を加えた進行度分類が使われています。肝臓がんは慢性肝炎や肝硬変を背景として発生するため、元々肝機能が通常より低下しています。このことが治療方針や予後に大きな影響を与えるため、進行度分類を決める重要な要素になっているのです。 世界的には広くBCLC(バルセロナ臨床肝がん)病期分類が用いられています。手術やRFAが標準治療である早期肝臓がんはステージ0~A、ステージBは中間型、ステージCは進行期、ステージDは終末期とされています。SBRTではステージ0~AとステージCにて適応となります。
リンパ節転移とは、肝臓がんが原発巣から近くのリンパ管に侵入し、リンパの流れに乗って、近くのリンパ節にたどりつき、そこで増殖することです。ほかのがんと比較して肝臓がんのリンパ節転移はまれです。 遠隔転移とは、肝臓がんが近くの血管に侵入し、血液の流れにのって他の臓器(主に脳、肺、骨、副腎など)に移動し、そこで増殖することです。 転移がある場合、全身療法が主体となります。通常遠隔転移は多発することが多いですが、数個のみのオリゴメタスタシスという状態があります。その際にはその病巣にSBRTなどの局所治療が有効なことがあります。
「診療ガイドライン」は、ある分野の専門医師が委員会を開き、最適な診療や治療方法を細かく決めたものです。たくさんの臨床研究の中から科学的に信用のできる研究をシステマティックに集め、議論して、最善であると合意して決められます。いわば医師向けの客観的な診療の手引きです。 医師が用いる「標準治療」とは、ガイドライン作成委員会にて有効性と安全性を確認され,現時点で最善の治療として合意された治療法です。ただし、標準治療が絶対ではありません。標準治療でなくても、ガイドラインに掲載されている治療はほかにもあります。それぞれの患者で全身状態が異なりますし、また価値観やライフスタイルもさまざまです。 ステージAの肝臓がん患者さんに対する標準治療は手術、RFAです。SBRTは、それらが医学的理由で行えない、もしくは希望しない患者に対する推奨されている治療です。そして医学的な理由で手術、RFAが行えないことが43%もあると報告されています。
現時点では、標準治療のほうがよい治療といえます。そう考える科学的根拠があるからです。患者さんやご家族から,「先日の新聞記事に掲載されていた最先端の治療を受けたいと思うが、どうでしょう。受けられますか?」などの質問をときどき受けます。しかしそのような記事に掲載されている治療は、多くの場合有効性と安全性を確認されていません。まだ動物実験もしくは臨床試験の段階のことが多いです。検討してよい治療法は、標準治療でなくても、ガイドラインに掲載されています。もしくは、有効な治療法がない場合に、その先端治療の臨床試験が行われているなら、その試験に参加する形で治療を受けることもあるでしょう。
手術で取り切れていても、RFAをおこなってがんが消失しても、小さながんが残っていることがあります。このような小さながんが時間と共に増大して画像検査で見つかると(局所)再発と言います。局所再発をした病巣に同じ治療をまた行っても、再度局所再発するリスクが高くなります。ほかの治療後に局所再発を起こした病巣には、SBRTが効果的です。我々の経験では89%制御できています。 遠隔転移(骨、肝、脳など他臓器への転移)の場合、治療前のステージングの画像検査では見つからないほど小さながんが隠れていることがあります。遠隔転移の再発については、1つ見つかれば見えない遠隔転移が原則としてたくさんあると考えます。そのため、全身療法が主体の治療方針となります。しかし、最近、小数個しか遠隔転移が認められない状態であるオリゴメタスタシスが注目されています。
オリゴメタスタシスとは、広範囲に遠隔転移する能力を獲得しておらず、少数個の転移のみ存在する状態です。そのような状況では、遠隔転移に対してSBRTや手術などの局所治療が有効です。SBRTは患者にやさしい治療であり、オリゴメタスタシスであれば根治に導く可能性があります。全身化学療法は延命を期待できても根治への望みは少ない治療です。オリゴメタスタシスの状態であれば、一度SBRTを試みるのが一法だと考えます。
体外からの放射線治療(外部放射線治療)では、治療中には痛みや熱さを感じることはありません。密封小線源治療では、治療器具の挿入時に痛みがありますので、鎮静剤や鎮痛剤を用いることがあります。広範囲の照射を行ったり、まれに放射線感受性の高い患者では、放射線治療中に疲労感が生じることがあります。これを放射線宿酔(しゅくすい)と言います。典型的には照射後2-3時間後に疲労感を生じます。また、むかつきやまれに嘔吐することもあります。照射開始から数回に起きることが多く、徐々に回復していきます。
放射線治療の副作用は大きく分けて、急性障害と慢性障害があります。原則として照射された臓器に特異的な副作用が起こります。急性障害はおおよそ治療後3ヶ月以内に出現する副作用です。これは細胞分裂が盛んな細胞が照射によって障害を受けるために生じます。頭に当てれば脱毛、皮膚炎、口に当てれば口内炎、唾液がでにくくなります。肺に当てれば放射線肺臓炎、肝臓に当てれば肝機能障害、膀胱に当てれば頻尿など、胃に当てれば胃潰瘍、食欲不振、味覚障害などが生じえます。症状が出るかどうかや重症度はそれぞれの臓器にあたる放射線量や広さによって異なります。放射線治療医はこれらの副作用をできる限り抑えつつ、がんへの治療効果が最大限高くなるよう放射線の当て方を考えます。副作用が出た場合は、その症状に応じて適宜症状を緩和させる薬が処方されます。原則ゆっくりと快方に向かいます。慢性障害はおおよそ治療後半年~数年後に生じます。これは組織の血流障害が原因です。一度生じると難治性です。こちらも照射された臓器に特異的に起こります。
放射線治療単独で行う場合には、仕事をしながら治療を行うことは可能です。実際に毎回の放射線治療に要する時間は30分程度ですが、通院時間や診療の待ち時間がありますので、診療の際に申し出て下さい。余裕のある時間調整を心がけましょう。抗がん剤治療との併用などの場合には入院が必要なこともあります。
一般的に、日常生活に特に制限はありません。お風呂に入っても大丈夫です。患者の元々の体力や照射する範囲の大きさによりますが、体力が落ちているようなら適宜運動を減らして下さい。特にSBRTでは照射する範囲が狭いため、ほとんど体力を消耗しません。患者には普段通りの生活、運動をするようにアドバイスしています。
休んでもすべて効果がなくなることはありませんが、放射線治療は平日続けて照射するように計画が立ててありますので、予定通り照射を続けることが望ましいです。癌の種類によっては、あまり休みが長くなると効果が薄まるとの報告もあります。
SBRTは英語ではstereotactic body radiotherapy、またはSABR: stereotactic ablative body radiotherapy、日本語では体幹部定位放射線治療と言います。高い位置精度で多方向から集中的に狭い照射範囲に高線量照射する方法です。治療回数は1-10回程度です。治療効果は極めて高く、大船中央病院の実績では、局所制御率(治療した肝臓のもともとの病巣が再発しない確率)は96%です。また照射範囲が狭いため、副作用が少ないのも特徴です。
原則として、リンパ節転移、遠隔転移(骨、肝、脳などの他臓器への転移)のない早期肝臓がん患者さんです。手術やRFAを行えない患者さんはもとより、手術やRFAを希望しない患者さんも対象になります。当院では、門脈腫瘍塞栓肝臓がん患者にも適応を広げてSBRTを行っています(現在臨床試験中です)。SBRTを行うリスクが高い場合には、どのようなリスクがあるか、ほかの治療法があるか、無治療ではどうなるかを説明して、方針を一緒に考えていきます。
初期(ステージ1)の肝臓がんに対して手術やRFAと、SBRTの治療成績を公正に比較した結果はいまだ出ていませんので、厳密な意味ではわかりません。 SBRTの治療成績が手術やRFAと同等であるとする科学的に信用のできる研究がない現状において、標準治療は手術となっています。一方で、それより確証性の低い方法でSBRTとRFAを比較した報告が2つ出ています。いずれの報告でも、SBRTを受けた患者とRFAを受けた患者の中から、肝機能や腫瘍の大きさが似たもの同士を集めて傾向スコア分析という方法を用いて比較しています。その結果、治療部位の再発率はSBRTの方が有意に低く、生存率は変わらないという結果でした。
可能であれば紹介状と画像データをご用意の上、大船中央病院放射線治療センターまでお電話下さい。もしご用意できなくても診療は可能です。ただし、こちらにて再検査となり、治療までに時間を要することをご了承下さい。原則として翌週までに初診を行えるよう提案をさせてもらいます。(遠方の場合、オンラインセカンドオピニオンという方法もあります。)
事前に2人の放射線治療医が紹介状と参照画像を確認し、想定される治療方針や問題点を予め検討します。初診では、患者さんの状態を把握しつつ、病状を説明させていただきます。その際に患者さんやご家族の要望もお聞きしています。SBRTの適応があると当院初診担当放射線治療医が判断し、かつ患者さんが納得されれば、検査のスケジュールを組みます。同時に多くの場合、治療計画日および治療の日程も組みます。
検査としては採血、胸部レントゲン写真、胸部CT、PET-CT、肺機能検査、(頭部MRI、心電図)などです。持病をお持ちの場合、適宜呼吸器内科医などにも併診してもらいます。
多くの場合、初診日の週もしくは翌週に行います。全身がすっぽりはまる型を作製し、コルセットなどで腹部を圧迫して呼吸を抑制した状態で、CTを撮影します。その後にCTデータを3次元治療計画ワークステーションに送り、最適な治療計画を立てます。計画は医師と協議のうえ、専任の2人の物理士が立てます。
当院の体幹部定位放射線治療は、原則として5回(または10回)の分割照射です。1日1回の治療で、1回の治療時間は入室から退室まで約20-30分程度です。通常月曜日に始まり、金曜日に終了となります。原則として木曜日までに治療計画を行った場合翌週に、金曜日に計画を行った場合翌々週に治療を行います。当院のSBRTは治療装置に付随しているCBCT (cone-beam CT)を用いた、IGRT (image-guided radiotherapy)です。また、照射方法はVMAT (volumetric modulated arc therapy)です。外来通院も可能ですが、入院治療にも対応しています。退院は治療終了日もしくはその翌日としています。
当院のSBRTではがんが存在する中心部分の線量を高くする方法を用いています(図)。当院の(処方)線量は見かけ上は、少なく定義されています。これは腫瘍のまわりに安全域(5-8mm)を追加した領域(PTV:計画標的体積)の縁(へり)を処方線量としているからです。すなわちこれはPTVに対するほぼ最低線量を示しています。 腫瘍がある中心部分は55Gy/5回以上で、十分に大きな線量が当てられています。現在、当院では肝機能、全身状態と照射範囲に応じて以下の図のように3つの方法で治療を行っています。肝機能が良好な方では、腫瘍の周りの安全域にも余裕を持って照射していますが、肝機能が低下している方には安全域と小さくして腫瘍近傍のみに高線量照射される方法を用いています。
図:大船と日本標準の線量の違い
治療1ヶ月後、その後3ヶ月おきに採血と画像検査を行っています。1ヶ月後には肝臓がんの腫瘍マーカーであるAFPやPIVKA-IIの値が多少減っていることがありますが、変化ないこともしばしばあります。画像検査では多くの場合、変化ありません。4ヶ月後には縮小しますが、まだがんは消えていません。放射線治療後の画像評価では、がんが大きくならない場合を“無増悪”と考えて、制御されていると判断します。実際に、がんは平均で6ヶ月後に消失しますが、なかには徐々に小さくなりながら3年かけて消失することもあります。 5日間の治療中はほぼ無症状です。高度に肝機能が低下していなければ疲労感もほとんどありません。肝臓がんに対する放射線治療の副作用で最も重大なものは肝機能低下です。元々肝機能が低い患者さんに広い範囲に照射を行うと、予備能が低いうえにさらに肝機能が低下するので、足がむくんだり、腹水が生じてしまい、いわゆる非代償性肝硬変を生じてしまいます。我々はそうならないように慎重に計画して治療しています。 そのほか、肋骨にも高線量があたる場合、肋骨骨折は高頻度に生じます。骨折が生じても保存的に経過をみます。多くの場合痛みはありませんが、肋間神経痛を伴い痛みが生じることもあります。その場合でも鎮痛薬は不要のことが多いです。肋間神経痛を生じた患者のおよそ3%に一時的に鎮痛薬を処方しています。 肝臓がんが消化管(食道、胃、十二指腸、大腸)に近接している場合には、治療終了後から数ヶ月の間に潰瘍が起きることがあります。症状としては食欲不振、嘔気、上腹部痛、胃の重さなどが起きます。