早期肝臓がん患者に対する標準治療は手術とRFAです。しかし早期であっても43%の患者さんには標準治療が行えないと報告されています。SBRT(体幹部定位放射線治療、いわゆるピンポイント放射線治療)は、これら2つの治療法の欠点を補う特徴を持っています。われわれは多くの治療経験と多施設との連携から培われた知識を元に、SBRTという選択肢を提供します。
早期肝臓がんにて手術やRFAが行えない場合、多くの施設ではTACE(肝動脈化学塞栓術)が行われています。しかし、TACEの治療部位の再発率は、治療がうまくいってしっかり詰められた場合でも再発率が18%と高率です。ガイドラインでは、SBRTは「…、切除・穿刺局所療法が施行困難な…場合、体幹部定位照射を行ってよい。」とされています。手術やRFAが適応にならない場合、それらを希望しない場合は是非SBRTという選択肢を検討してみてください。
SBRTはなぜ手術可能な人の標準治療ではないのか?
最大の理由は「標準治療とSBRTの治療成績の直接比較の結果は出ていない」からです。 SBRTを受けた患者とRFAを受けた患者の中から、肝機能や腫瘍の大きさが似たもの同士を集めて比較した傾向スコア分析の2つの報告では、治療部位の再発率はSBRTの方が有意に低く、生存率は変わらないという結果が報告されています。
肝細胞がんは慢性肝炎、肝硬変の患者に発症することが多いがんです。治療法として手術、穿刺治療(RFA等)、経動脈的腫瘍塞栓術(TAE, TACE)が行われることが多く、放射線治療が行われることは最近までありませんでした。しかし放射線治療の高精度化に伴い、選択的に腫瘍に集中して治療可能となり、有用な報告が出始めました。
当院では肝細胞がんに対して積極的に体幹部定位放射線治療をしています。累積患者数は約700例であり、世界で最も多い治療経験数を持っています。しかし肝細胞がんの全てに体幹部定位放射線治療が最適というわけではありません。それぞれの治療法で得手不得手があるのです。
穿刺治療は腫瘍をピンポイントに焼灼する治療法です。高い治療効果を示すと同時に、肝機能の損失が少ない治療法です。腫瘍がこの治療法に適する大きさで、安全に穿刺可能な部位にある場合、この穿刺治療が最優先に考慮される治療法だと考えます。しかし穿刺治療は超音波で見ながら、皮膚から治療用の針をさして腫瘍まで安全に到達できて、始めて可能となる治療法です。そのため腫瘍が超音波にて見えない位置に存在したり、周りに太い血管や胆管があったりする場合には危険なことがあります。
手術は確実な治療法ですが、腫瘍の位置によっては広範囲に正常な肝臓を切除しなければいけないときがあります。また比較的患者に負担のかかる治療法です。そのため患者さんの合併症や肝機能によって、しばしば手術が不可能なことがあります。
これらの治療法の中でそれぞれの患者さんに最適な治療法を話し合って決めることが重要と考えています。わたしたちは、主治医が他病院に在籍しているとしても、積極的に連絡を取り、共通理解のもとで多くの肝細胞がん患者を治療しています。
体幹部定位放射線治療が安全に治療可能な典型的領域:赤線内
体幹部定位放射線治療が適応となるのは、上図のように穿刺治療が困難な部位に腫瘍が存在する患者さん、出血傾向があり他の治療法が危険な患者さん、他の治療法を拒否する患者さん、比較的高齢で体力がない患者さんです。原則として腫瘍の数はひとつに限られます。腫瘍の大きさはその位置にもよりますが、原則4cmくらいまでです。4cmを超える場合には陽子線治療の方が適する場合が多いと考えています。今までの経験からは、腫瘍が大血管や胆管の近くにあり、それらの正常臓器にも高線量があたる場合にも大きな副作用を来していません。しかし消化管(胃、十二指腸、大腸)は放射線に弱い臓器です。その近くの腫瘍では適応外となることもあります。
また門脈腫瘍塞栓や胆管塞栓を有する場合には体幹部定位放射線治療もしくは通常の放射線治療が有効なことがあります。
当院には大学病院を始め、多くの有名病院より紹介患者がいらっしゃいます。肝細胞がんに対する放射線治療の適応について知りたい患者さんは、セカンドオピニオンの形式で受診をしてください。また当院で患者さんに配布している説明書(PDFファイル)をご覧ください。
また全国の大学病院を含めた多他施設共同の臨床試験を行なっています。
肝門部に比較的大きな腫瘍が存在する患者さんです。
左図は体内での放射線の広がりを示した線量分布図です。腫瘍には多く照射され、その近傍にも少し照射されます。右図は治療後に経過観察で撮影したCTです。肝門部の腫瘍が徐々に小さくなったことが示されています。3年以上経過していますが、コントロール良好です。
肝辺縁、右副腎近傍に腫瘍が存在する患者さんです。
左図が治療前(線量分布図),右図は経過観察のCTです。右図で腫瘍が小さくなったことが示されています。3年以上経過していますが、コントロール良好です。
門脈臍部近傍に腫瘍が存在する患者さんです。
左図が治療前(線量分布図),右図は経過観察(18か月後)のCTです。3年以上経過していますが、コントロール良好です。
門脈腫瘍塞栓が存在する患者さんです。
左図が治療前(線量分布図),右図は治療前と治療後のCTでの比較です。照射前に認められた門脈腫瘍塞栓は、消失しています。
巨大肝細胞がんに対し、抗がん剤治療併用にて体幹部定位放射線治療を施行した患者さんです。
門脈腫瘍塞栓(右上図矢印部)のみを標的とした体幹部定位放射線治療を施行しました。門脈腫瘍塞栓は消失し、門脈が開通しました(左下図)。治療後21ヶ月後のCTでも門脈は開通しています(右下図)。