肺がんや放射線治療について、患者様からよくいただくご質問と回答をご紹介します。
Q.1 肺がんとはどんな病気ですか?
Q.2 どんな症状が出ますか?
Q.5 肺がんの「病期(ステージ)」とはどういう意味ですか?
Q.9 再発について教えて下さい。
Q.10 オリゴメタスタシスについて教えて下さい。
Q.2 放射線後の副作用はありますか?
Q.1 肺がんとはどんな病気ですか?
Q.2 どんな症状が出ますか?
Q.5 肺がんの「病期(ステージ)」とはどういう意味ですか?
Q.9 再発について教えて下さい。
Q.10 オリゴメタスタシスについて教えて下さい。
Q.2 放射線後の副作用はありますか?
肺がんは日本において年間約12万人がかかり、7万人が死亡する、がんの中で最も死亡数が多い病気です。
近年早期癌で発見される頻度が高くなったこと、さまざまな治療法が進歩したことによって死亡率は減少傾向にあります。
肺がんが疑われた場合、病理と病期(ステージ)診断のための諸検査が行われ、病理組織型と病期ごとに適切な治療法が提案されます。
早期であれば手術が標準治療となっています。そしてSBRTは体力がなかったり、ほかに病気をお持ちで手術を行えない患者さん、もしくは手術を希望しない患者さんに対する治療です。
進行している場合には、手術のほかに放射線治療や抗がん剤治療、さらにこれらを組み合わせた治療が選択されます。
早期肺がんの場合、ほとんど症状は出現しません。そのため健康診断や偶然撮影したレントゲン写真またはCTにて発見されます。
一方、進行した肺がんでは、咳、呼吸困難(息切れ、息苦しさ)、体重減少、疲労感、痰、血痰(血の混じった痰)、胸の痛みなどの症状が出現することがあります。
これらの症状は肺がんには特有の症状というわけではありません。風邪症状やほかの病気の症状と似ています。
そのため症状が長引くなど気になることがある場合は、医療機関を早めに受診して確認ください。
肺がんが疑われた場合、まず採血、レントゲン写真、CTが行われます。
それらの検査を行ってさらに肺がんが疑われた場合には、①本当に肺がんか?肺がんならどのような種類であるかを調べ、同時に②どの範囲に広がっているか(進行度、病期、ステージング)を調べます。
種類を調べるためには気管支鏡検査を行います。範囲を調べるためには、PET-CT、頭部MRIなどを行います。
また、③患者さんの体力やほかの病気を調べるために、呼吸機能検査、心電図が行われ、ほかの病気があればさらに検査を追加します。
そうして肺がんの状態と患者の全身状態を確認して、最適な治療法を提案します。
肺がんの種類は気管支鏡検査などで直接がん細胞を採取(生検)して、それを顕微鏡で調べて診断(病理診断)します。
肺がんには大きく分けて、「小細胞がん」と「非小細胞がん」があります。
「小細胞がん」は肺がん全体の15%を占め、増殖が速く、転移を起こしやすい特徴があります。抗がん剤や放射線治療が効果的です。
初期(ステージ1)の小細胞肺癌では手術やSBRTが行われることもあります。その後に抗がん剤治療を検討します。
「非小細胞がん」は、腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌など多くの種類があり、さまざまな種類のがんの総称です。
そのうち腺癌が多いのですが、腺癌のなかにも多くの種類があります。例えばスリガラス陰影を伴う高分化腺癌は、リンパ節転移や遠隔転移の頻度が極めて低いです。
「非小細胞がん」では、ステージ1では手術、ステージ2-3では手術または放射線治療と、全身療法の併用治療が、ステージ4では全身療法が主な治療となります。
昨今、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などさまざまな薬剤が開発されており、その適応は日進月歩で塗り替えられています。
また、CTやPET-CTの画像所見や腫瘍マーカーによって肺がんを強く疑うけれど、生検で診断が確定できないことが往々にしてあります。その場合、専門医の合議で肺がんとみなして治療を行います。これを「臨床診断肺がん」と言います。手術を行えば、切除後に種類が確定します。
SBRTを行う患者の約半数が「臨床診断肺がん」にあたりますが、この場合治療後に種類はわからないままとなります。
がんでは、その大きさと広がりを把握するために進行度分類(ステージング)を行います。
肺がんのステージングではTNM分類(UICC第8版)が用いられます。
TNMとはそれぞれ原発腫瘍(Tumor)、リンパ節転移(lymph Node)、遠隔転移(Metastasis)の頭文字を示します。
それぞれの状態が評価されます。たとえば原発巣(肺のもともとのがん病巣)のサイズが2.5cm、リンパ節転移、遠隔転移(骨、肝、脳など他臓器への転移)がない場合にはT1cN0M0と表されます。この場合ステージ1に分類されます。ステージはステージ0からステージ4まで5つに分類されています。
病期には臨床病期と病理病期の2つがあります。臨床病期は、手術を行う前に検査にて診断した病期です。
一方、病理病期は、手術による所見を加味して診断した病期です。臨床病期と病理病期はしばしば異なります。臨床病期に基づいて手術を行った結果、実際には腫瘍が小さかったり、リンパ節転移がなく、ステージが下がることもありますし、逆に術前検査では見つからなかった転移が見つかって、ステージが上がることもあるからです。
リンパ節転移とは、肺がんが原発巣から近くのリンパ管に侵入し、リンパの流れに乗って、近くのリンパ節にたどりつき、そこで増殖することです。病変から一番近い肺門リンパ節、続いて縦隔リンパ節へと転移します。
遠隔転移とは、肺がんが近くの血管に侵入し、血液の流れにのって他の臓器(主に脳、骨、肝臓、副腎など)に移動し、そこで増殖することです。せっかく治療を行ったのに、遠隔転移がすぐに見つかることがあります。このような遠隔転移はいつ来たのでしょうか?がんは元々1つの細胞が5-10年かけて増殖して見つかる程度の大きさ(直径1cmほど)になるといわれています。ということは遠隔転移が見つかるより5-10年前、すなわち肺がんが発見されるよりずっと以前に転移していたのだと考えるのが妥当です。
「診療ガイドライン」は、ある分野の専門医師が委員会を開き、最適な診療や治療方法を細かく決めたものです。たくさんの臨床研究の中から科学的に信用のできる研究をシステマティックに集め、議論して、最善であると合意して決められます。いわば医師向けの客観的な診療の手引きです。近年では、ガイドラインの内容をがん患者さん向けにわかりやすく解説した「患者さんのための肺がんガイドブック」が刊行されていますので、本サイトと合わせて参考にされてください。
医師が用いる「標準治療」とは、ガイドライン作成委員会にて有効性と安全性を確認され,現時点で最善の治療として合意された治療法です。ただし、標準治療が絶対ではありません。標準治療でなくても、ガイドラインに掲載されている治療はほかにもあります。それぞれの患者で全身状態が異なりますし、また価値観やライフスタイルもさまざまです。
ステージ1の肺がん患者さんに対する標準治療は手術です。SBRTは、医学的理由で手術ができない、もしくは手術を希望しない患者に対する推奨されている治療です。
手術で取り切れていても、放射線治療をおこなってがんが消失しても、小さながんが残っていることがあります。このような小さながんが時間と共に増大して画像検査で見つかると(局所)再発と言います。
遠隔転移(骨、肝、脳など他臓器への転移)の場合、治療前のステージングの画像検査では見つからないほど小さながんが隠れていることがあります。ステージ2-3の場合、画像的には遠隔転移を認めませんが、小さな遠隔転移が隠れている可能性が高くなります。
予防的に全身療法を行うことで、遠隔転移の再発頻度を小さくします。遠隔転移の再発については、1つ見つかれば見えない遠隔転移がたくさんあると考えます。そのため、全身療法が主体の治療方針となります。しかし、最近小数個しか遠隔転移が認められない状態であるオリゴメタスタシスが注目されています。
体外からの放射線治療(外部放射線治療)では、治療中には痛みや熱さを感じることはありません。密封小線源治療では、治療器具の挿入時に痛みがありますので、鎮静剤や鎮痛剤を用いることがあります。広範囲の照射を行ったり、まれに放射線感受性の高い患者では、放射線治療中に疲労感が生じることがあります。これを放射線宿酔(しゅくすい)と言います。典型的には照射後2-3時間後に疲労感を生じます。また、むかつきやまれに嘔吐することもあります。照射開始から数回に起きることが多く、徐々に回復していきます。
放射線治療の副作用は大きく分けて、急性障害と慢性障害があります。原則として照射された臓器に特異的な副作用が起こります。急性障害はおおよそ治療後3ヶ月以内に出現する副作用です。これは細胞分裂が盛んな細胞が照射によって障害を受けるために生じます。頭に当てれば脱毛、皮膚炎、口に当てれば口内炎、唾液がでにくくなります。肺に当てれば放射線肺臓炎、肝臓に当てれば肝機能障害、膀胱に当てれば頻尿など、胃に当てれば胃潰瘍、食欲不振、味覚障害などが生じえます。症状が出るかどうかや重症度はそれぞれの臓器にあたる放射線量や広さによって異なります。放射線治療医はこれらの副作用をできる限り抑えつつ、がんへの治療効果が最大限高くなるよう放射線の当て方を考えます。副作用が出た場合は、その症状に応じて適宜症状を緩和させる薬が処方されます。原則ゆっくりと快方に向かいます。慢性障害はおおよそ治療後半年~数年後に生じます。これは組織の血流障害が原因です。一度生じると難治性です。こちらも照射された臓器に特異的に起こります。
放射線治療単独で行う場合には、仕事をしながら治療を行うことは可能です。実際に毎回の放射線治療に要する時間は30分程度ですが、通院時間や診療の待ち時間がありますので、診療の際に申し出て下さい。余裕のある時間調整を心がけましょう。抗がん剤治療との併用などの場合には入院が必要なこともあります。
一般的に、日常生活に特に制限はありません。お風呂に入っても大丈夫です。患者の元々の体力や照射する範囲の大きさによりますが、体力が落ちているようなら適宜運動を減らして下さい。特にSBRTでは照射する範囲が狭いため、ほとんど体力を消耗しません。患者には普段通りの生活、運動をするようにアドバイスしています。
休んでもすべて効果がなくなることはありませんが、放射線治療は平日続けて照射するように計画が立ててありますので、予定通り照射を続けることが望ましいです。癌の種類によっては、あまり休みが長くなると効果が薄まるとの報告もあります。
放射線治療の効果はゆっくりと出てきます。治療後1ヶ月後の時点でもがんが縮小していない場合もしばしばあります。症状は画像検査での評価より早めに緩和する印象があります。肺がんに対するSBRTの場合、3ヶ月後に縮小しているのは半数程度です。また同時期に放射線肺臓炎が出現してがんの原発巣が埋没してしまうことが往々にしてあります。しかし安心して下さい。大船中央病院での肺がんに対するSBRTの局所制御率(治療した肺のもともとの病巣が再発しない確率)は99%です。
SBRTは英語ではstereotactic body radiotherapy、またはSABR: stereotactic ablative body radiotherapy、日本語では体幹部定位放射線治療と言います。高い位置精度で多方向から集中的に狭い照射範囲に高線量照射する方法です。治療回数は1-10回程度です。治療効果は極めて高く、大船中央病院の実績では、直近の約500例における局所制御率(治療した肺のもともとの病巣が再発しない確率)は99%です。また照射範囲が狭いため、副作用が少ないのも特徴です。
原則として、リンパ節転移、遠隔転移(骨、肝、脳などの他臓器への転移)のない肺がん患者さんもしくは肺がんが疑われる患者さんです。手術を行えない患者さんはもとより、手術を希望しない患者さんも対象になります。当院では、在宅酸素の患者、間質性肺炎の患者などにも適応を広げてSBRTを行っています。SBRTを行うリスクが高い場合には、どのようなリスクがあるか、ほかの治療法があるか、無治療ではどうなるかを説明して、方針を一緒に考えていきます。
初期(ステージ1)の肺がんに対して手術とSBRTの治療成績を公正に比較した結果はいまだ出ていません。ランダム化比較試験が海外にて数件企画されましたが、参加者が集まらず、いずれも終了しています(必要患者数の3%しか集まりませんでした)。そのうちの2つの試験に登録された少数の患者を集めて比較した報告では、SBRTの成績の方が統計学的に意味のある良好な成績でした。しかし、人数が少ないなど報告自体に批判もあります。 SBRTの治療成績が手術と同等であるとする科学的に信用のできる研究がない現状において、標準治療は手術となっています。今後のランダム化比較試験の結果に期待するところです。
欧米では多くの肺がん患者さんにSBRTが行われています。ガイドラインでは手術が標準治療ですが、実際にはSBRTの頻度が年々増えています。最新のデータでは、アメリカ(2016年)にてステージ1の肺癌に手術が行われる頻度は57%であるのに対して、SBRTは33%に行われています。オランダ(2018年)では、手術が40%なのに対して、放射線治療(主にSBRT)が52%と手術を上回る患者が放射線治療を受けています。
可能であれば紹介状と画像データをご用意の上、大船中央病院放射線治療センターまでお電話下さい。もしご用意できなくても診療は可能です。ただし、こちらにて再検査となり、治療までに時間を要することをご了承下さい。原則として翌週までに初診を行えるよう提案をさせてもらいます。(遠方の場合、オンラインセカンドオピニオンという方法もあります。)
事前に2人の放射線治療医が紹介状と参照画像を確認し、想定される治療方針や問題点を予め検討します。初診では、患者さんの状態を把握しつつ、病状を説明させていただきます。その際に患者さんやご家族の要望もお聞きしています。SBRTの適応があると当院初診担当放射線治療医が判断し、かつ患者さんが納得されれば、検査のスケジュールを組みます。同時に多くの場合、治療計画日および治療の日程も組みます。
検査としては採血、胸部レントゲン写真、胸部CT、PET-CT、肺機能検査、(頭部MRI、心電図)などです。持病をお持ちの場合、適宜呼吸器内科医などにも併診してもらいます。
多くの場合、初診日の週もしくは翌週に行います。全身がすっぽりはまる型を作製し、コルセットなどで腹部を圧迫して呼吸を抑制した状態で、CTを撮影します。その後にCTデータを3次元治療計画ワークステーションに送り、最適な治療計画を立てます。計画は医師と協議のうえ、専任の2人の物理士が立てます。
当院の体幹部定位放射線治療は、原則として5回(または10回)の分割照射です。1日1回の治療で、1回の治療時間は入室から退室まで約20-30分程度です。通常月曜日に始まり、金曜日に終了となります。原則として木曜日までに治療計画を行った場合翌週に、金曜日に計画を行った場合翌々週に治療を行います。当院のSBRTは治療装置に付随しているCBCT (cone-beam CT)を用いた、IGRT (image-guided radiotherapy)です。また、照射方法はVMAT (volumetric modulated arc therapy)です。外来通院も可能ですが、入院治療にも対応しています。退院は治療終了日もしくはその翌日としています。